ちょっといい話
- 公開日
- 2022/12/01
- 更新日
- 2022/12/01
お知らせ
俺の皿には冷めた料理がのっていた
すぐに再就職できると思っていたが、なかなか見つからず、仕方なく親戚が支配人をやっているファミレスに3ヶ月ほどバイトすることになった。その時、たくさんの家族連れやカップルを見てきたが、子どもの世話って、どの家族連れも母親がするもんなんだな。温かい食事を持っていっても、嫁さんは子どもに食べさせたりして、温かかった皿はどんどん冷めていく。逆に旦那は、子どもが何をしようが、嫁さんの飯が冷めようがお構いなしに自分の分を平らげていく。旦那が食べ終わると、子どもの世話をする人もいれば、そのまま新聞なんかを読み出す人もいる。どっちにせよ、温かい食事を食べる嫁さんというのは結構少ない。多分、家でもこうなんだろうな……。もし、俺に子どもが生まれて外食する時は、「俺も面倒みてやろう、嫁さんに温かい食事を食べさせてやろう」と思った。
それからしばらくして、待遇のよい会社へ再就職した。そして子どもにも恵まれた。
ファミレスに食べにいった時、子どもの世話をする嫁さんとその皿を見てふと思い出した。「あぁ、俺、あの時の旦那と同じことしてるな」と。「俺が面倒みるから、お前、先に食えよ」と言うと、嫁さんは驚いた顔をした。家でも滅多に子どもの面倒をみることもないから。嫁さんは「悪いから」と言ったが、「いいから、ほら」と、嫁の手から娘用のスプーンを取り、娘に食べさせた。嫁は小さく「ありがとう」と言い、温かい食事を食べ始めた。嫁はいつもより早口で食事をし、俺と交替した。俺の手からスプーンを受け取る時、「ありがとう、本当にありがとうね」と、涙ぐんでいた。
俺の皿には冷めた料理がのっていたが、それでも美味く感じた。