ちょっといい話
- 公開日
- 2022/07/12
- 更新日
- 2022/07/12
お知らせ
花火
母は、僕を女手ひとつで育ててくれた。僕の幼かった頃に亡くなった父は、マンションの10階を母に残した。そのマンションからは、夏に花火を見ることができる。父と母が過ごした街の花火。毎年花火の時には、窓際にテーブルを移動して、母と一緒に父を偲んだ。花火はいつもきれいで、母はうれしそうだった。「父は、母に素敵なものを残したな」って思った。でも、それは長くは続かなかった。
僕が高校の時に、うちのマンションの前に、もっと大きな高層マンションが建設された。僕は、「景観が悪くなるなぁ」って思ってた。その年の花火の日、いつものように、テーブルを移動して準備してた。「花火、見れるかな?」って心配だった。花火は見れなかった。見事にマンションで見えなくなっていた。音だけの花火。あんなに悲しそうな母の横顔を見たことがない。僕は、母を連れて、川辺に歩いていった。母と見上げた初めての花火。
父さん、心配するな。これからは僕が母さんを笑顔にする。
