東っ子日記

五味先生から、最新のロンドン便りがとどきました

公開日
2022/09/20
更新日
2022/09/20

学校日記

 日本では台風の話題でもちきりでしたが、イギリス、ロンドンではエリザベス女王の国葬についてのニュースが報道されていましたね。現在、ロンドン日本人学校に勤務されている五味先生から、最新のロンドン便りがとどきました。

ここからも →ロンドン便り5号

☆☆☆☆

皆さんお元気ですか? 大型で強い台風14 号の影響は大丈夫でしたか? 被害にあわれた方々にお見舞い申し上げます。さて、ニュースでご存じでしょうが、エリザベス女王陛下が、96 歳でお亡くなりになりました。その2 日前には静養先のスコットランドで新首相のトラスさんと会い、握手しているニュースを見、お元気でなによりと思ったばかりでした。しかし9/8 木曜日の夕方7時前に、訃報が入りました。職員室でも、今後休校になるのか、どのように喪に服するのかなどが話題になりましたが、すぐに英国政府から「これから10 日間喪に服す。9/19 を国葬の日にし、その日を休日とする。ただし、喪中も経済活動を止めてはいけない」ということが、国民に伝えられました。そこで日本人学校も、19 日の月曜日は休日とし、それまで半旗を掲げることにしました。
この6月には女王陛下在位70 年(Platinum Jubilee)を、国を挙げてお祝いし「国民の母」と慕われていた陛下ですから、突然の訃報に、英国国民の悲しみはとても大きかったようです。週末にかけ頻繁に起きている地下鉄や郵便のストもすぐに取りやめ、英国人が3度のご飯より好きだと言われているサッカーの試合も延期、街ゆく人々の多くは黒い服を着、喪に服している様子が見られました。
 亡くなった次の日の新聞は、全面女王陛下のこと、しかも広告がいっさいなしでした。その状態が1週間続き、やっと次の木曜日の新聞から、広告もパズルコーナーも、 街角の広告塔サッカーのニュースも載りました。その間、テレビもラジオも同じで、ずっと追悼番組、女王陛下をしのぶ映像ばかりで、曲も追悼の曲ばかりでした。しかし、喪に服し、慎むところは慎みながらも悲しみに耐え、普通に社会が動いているところに、英国社会の成熟度と女王陛下の遺志を受け継ごうという強い気持ちを感じました。
13 日には、女王陛下の棺を乗せた車が、我家から10 分ほどのところを通ってバッキンガム宮殿に帰っていったそうです。残念ながら私は、直接見られませんでしたが、職員の中には見たものもいました。その一帯がすごい警備と規制で、周りが大渋滞になっていたそうです。
警備のすごさといえば、19 日の国葬の日は、徹底していました。事前にロンドン交通局より、どの駅が閉鎖か、どの路線が利用不可か、どの道路が閉鎖かの連絡が入りましたが、当日は、ほぼシティの真ん中は動けない、動かないという状態でした。やむなくBBCで朝早くから観ることにしましたが、映像の中のシティには、いつもあんなに混雑しているのに、まるで人 がいないことに驚きました。会場のウェストミンスター寺院は、歴代君主の戴冠式、葬儀が行われる場所ですが、この夏休みにたまたま見学に行ってきました。中には、ニュートンやチャーチル等の墓、歴代君主の墓があるのですが、多くの墓は墓石として、床に敷かれています。ただ君主の墓は、一つ一つ大きな祠や建て物になっています。その中でもひときわ目を引いたのが、英国の繁栄を築いた名君として、今も人々からその功績をたたえられている、エリザベス1世の墓 です。(今回亡くなられた女王陛下は、エリザベス2世です。)
もう一つ、生中継されたテレビで気づいた方もいるかもしれませんが、女王陛下の棺をウェストミンスター寺院から出し入れする時、入り口近くの赤い花で囲まれたところを避けて歩いていました。あれは、第1次世界大戦の時に亡くなった無名戦士の墓なのです。他の墓石(例えば無名戦士の墓の直前にあるチャーチルの墓石)は、歩いて踏んでもよいのです。だからニュートンの墓石などは、長い年月ですり減って、つるつるしていますが、ここだけは、たとえ君主でも踏むことは許されません。
チャールズ国王やウィリアム皇太子、赤い服の衛兵、ビーフィーターと呼ばれる近衛兵、英国海軍や陸軍、他にも英国連邦の国の兵隊などに守られて、女王陛下の棺がウェストミンスターからバッキンガム宮殿へ、そしてマーブルアーチで車に積まれるまで行進しました。本当にシティの真ん中を歩きましたが、2mおきに警官が配置されてたとはいえ、人々は静かに拍手で迎え、花を捧げていました。いかに国民から愛されていたかということを目の当たりにした思いです。
そこからは、ウィンザー城へ車で向かいましたが、途中でケンジントン宮殿の中を走ったのを見て、きっとダイアナさんも喜んでいるだろうなぁと思いました。その後、車は、私の家のあるロンドン西部を走っていきました。沿道のどこも人々であふれ、女王陛下の棺に拍手をし、名残を惜しんでいました。今回の国葬は、女王陛下が人々から支持され、愛されているからこそ、こんなに素晴らしいものになったのですね。
私は今回、ウェストミンスター寺院を出る前に、国家である「God save the Queen」を歌っているのを聴き、思わず涙してしまいました。これが最後だからです。次のチャールズ国王の代では、「God save the King」になります。(日本人学校にとってもこの曲は、入学式・運動会・卒業式等でも日本国歌とともに歌い、慣れ親しんだ曲なのです。)最後の最後に「…Queen」と歌ったところに、国家をあげての女王陛下への尊敬を感じました。涙腺がゆるんだ理由がお分かりいただけたでしょうか。
なお余談ですが、天皇陛下の泊まったホテルは、我家から地下鉄で20分ほどのところにあります。超1流のホテルで、警備もすごかったそうです。アメリカのバイデン大統領はホテルに泊まらず、どこか郊外の屋敷を借りていたそうですね。そうそう、サッカーのベッカムが、一般客と一緒に夜中から並んで弔問し話題になっていましたが、こちらの友人に「好感度アップだけど、彼はpolitician(政治家)をねらってるのか」と聞くと、「いやいや彼の能力では無理だ」と即断されました。こと政治の話になると皆、とても真剣です。人気があるから政治家になるなんてことは、ないのです。