ちょっといい話
- 公開日
- 2023/02/13
- 更新日
- 2023/02/13
お知らせ
あの子を許してくれましたか
小学校の時、いじめられた。消しゴムを勝手に使われて、怒った相手が学年のボスの女子。それ以来、クラスから無視された。それが中学に入っても変わらなくて、真剣に自殺まで考えてたけど、音楽とか聞いて救われた。
中2の時に転校して、友達にも恵まれた。高校に入ってすぐバンドを始めた。地元の楽器屋に寄った帰り、私をいじめていたあの女子と再会した。親戚の法事で来たらしい。彼女は、あやまってくれた。私は、とっくの昔に「許しているよ」と言った。それから、彼女の乗ったバスを見送り、私も帰ろうとした時だった。後ろから聞いた事のない大きな音がした。振り返ると彼女が乗っているバスが、ひしゃげていた。すぐ側には、大きなクレーン車が横転していた。すぐにレスキュー隊が到着して、割れた窓から血まみれになった彼女を運び出した。それからの記憶はなぜか曖昧で、はっきり覚えていない。
1月ほど経って、私は電車に乗って彼女の家に行った。葬式にも通夜にも出席できなかったので、せめて仏壇に手を合わせたいと思ったからだ。仏壇に手を合わせ、帰ろうとする私を、彼女の両親が引き止めた。彼女の母親が、亡くなった彼女がつけていた日記帳を見せてくれた。日記には、「私をいじめて後悔していた事、始めたのが自分で引っ込みがつかなくなってしまった事、私が転校し謝る事ができなくなった事」などが綴られていた。そして、「中学の先生に私の転校先を聞き、そして私に謝りに行くという決心」が、日記の最後だった。「親戚の法事」は嘘だった。
読み終えた私に、彼女の母親が「あの子を許してくれましたか?」と聞いてきた。私は一言、「はい」とだけ、多分涙声で答えた。すると彼女の母親は私の手を両手で掴み、「ありがとう」と言って鳴咽を漏らし出した。彼女の父親も余っていた私の手を掴み、私の目をまっすぐ見ながら「ありがとう」と言った。2人とも何度もむせび泣きながら、何度も「ありがとう」と言った。