ちょっといい話
- 公開日
- 2023/01/24
- 更新日
- 2023/01/24
お知らせ
メロンパン
ふと気が付けば、もう随分と昔の話。学校帰りに東武のデパ地下を通りかかると、丁度パン屋でメロンパンが焼きあがったところだった。試食させてもらうと中々美味かったので、俺はオヤジへの土産と自分の分の2つを買った。甘いものが好きなオヤジの事だから、多分メロンパンも好きだろうと思ったのだ。当時、オヤジはガンの手術を受けた直後。家で療養していた。衰弱して手足を満足に動かせないオヤジに、俺はメロンパンをちぎって食べさせた。「うん、美味いな」「だろ、だから思わず買ってきたんだ。もっと食べる?」「いや、いい」オヤジはメロンパンを2欠片しか食べてくれなかった。ちょっと拍子抜けして、俺はほぼ2個のメロンパンを平らげた。
それから数ヶ月。転移したガンにやられ、オヤジは51歳で天国へ長期出張。通夜・葬式と慌しく時間が過ぎ、やっとひと段落した時、俺は初めてお袋にあの時のメロンパンの話をした。そこで初めて知った事が2つ。オヤジはメロンパンが好きではなかったという事、あの時、オヤジは口から食べ物を摂取できる状態ではなかった事。オヤジは無理してメロンパンを食べてくれたのだ。断ってしまって、俺が傷つかないように……。メロンパンを見せた時の「おぉ」という声と笑顔。「食べる?」と聞いた時にも、躊躇せず「食べる」と答えてくれた。
思い出して、涙が止まらなかった。一昨日、職場のおばちゃんが美味しいメロンパンを買ってきて、俺におすそ分けしてくれた。俺が思わず涙ぐんだ理由をおばちゃんは知らない。