ちょっといい話
- 公開日
- 2022/12/20
- 更新日
- 2022/12/20
お知らせ
ボロボロで指紋びっしりの写真
俺が小さい頃に撮った家族写真が1枚ある。見た目普通の写真なんだけど、実はその時父が難病を宣告されていてそれほどもたないだろうといわれ、入院前に今生最後の写真はせめて家族と……、撮った写真らしかった。俺と妹はまだそれを理解できずに無邪気に笑って写っているんだが、母と祖父、祖母は心なしか固いというか思い詰めた表情で写っている。当の父はというと、どっしりと腹をくくったという感じで、とても穏やかな表情だった。母がその写真を病床の父に持っていったんだが、その写真を見せられた父は特に興味も示さない様子で「その辺に置いといてくれ、気が向いたら見るから」とぶっきらぼうだったらしい。母も、それが父にとって最後の写真という事で、見たがらないものを無理強いするのもよくないと思って、そのままベッドのそばに適当にしまっておいた。
しばらくして父が逝き、病院から荷物を引き揚げる時に改めて見つけたその写真は、まるで大昔からあったようなボロボロさで、家族が写っている部分には父の指紋がびっしり付いていた。普段もとても物静かで、宣告された時も見た目普段と変わらずに平常だった父だが、人目のない時、病床でこの写真をどういう気持ちで見ていたんだろうか。今、お盆になると、その写真を見ながら父の思い出話に華が咲く。祖父、祖母、母、妹、俺……。その写真の裏側には、もう文字もあまり書けない状態で一生懸命書いたのだろう、崩れた文字ながら、「本当にありがとう」とサインペンで書いてあった。