ちょっといい話
- 公開日
- 2022/11/30
- 更新日
- 2022/11/30
お知らせ
大丈夫、大丈夫だからね
抗がん剤も効果なく「これ以上の治療は、ただ体力を削るだけだ」と医者から宣告され、穏やかに過ごすために、母は私の働く病院に入院しました。
夜勤に入る前に早めに行って、いつも通り話をしてると、「あんたがいてくれてよかった」と急に言われた。徐々に弱って、胸水が溜まり始めてたから不安に思ったけど、とりとめのない話を続けてる内に夜勤も終了。
仕事が終わった途端、急に母が苦しみだした。「どうにかして……」と、すがるように母が私を見た。不安にさせないように笑顔で居ることが私の役割。いつも通り「大丈夫」って擦ってあげればよかった。でも、私は動くことができず、何とか笑おうとしても、どうしても顔が引きつってしまい、涙がこぼれた。「泣いたらだめだ」と思い、母から顔を逸らした。そのとき母は、ぐっと手首を掴み「大丈夫、大丈夫だからね」と言った。目の焦点さえも、私にあわせられていないのに……。手首を掴む手も、力強い声も、昔の強いお母さんでした。それ以降、母は苦しいとも辛いとも言わずに、2時間後に亡くなりました。
「大丈夫」、それは私が言ってあげなければならない言葉だったのに。私は看護師失格で、母から「キツイ」「苦しい」の言葉を奪ってしまった。でも最後に子どもでいられた。どんなに子どもが大人になろうとも、経験を積んで立派になろうとも、母親には敵わないと思った。