ちょっといい話
- 公開日
- 2022/11/28
- 更新日
- 2022/11/28
お知らせ
あの酒は親父と一緒に呑みたいから
6年前に亡くなった親父。決してよい父親じゃなかった。嫌な事があると酒を飲んでは暴れ、母親にあたってばかりいた親父。思春期の頃から大っ嫌いだった。でもそれが、自分も大人になり、いつの間にか小さくなった親父の背中を見た時、ふと親父も辛かったのかなと思えた。寒くなり始めた頃、次の正月には一緒に酒を呑もうと思って話をした。めっきり酒に弱くなっていた親父。一度も一緒に呑んだ事がなかったから。なのに……、何でその1週間後に逝くんだよ。何で急に逝くんだよ。建てた家も産まれたばかりの孫も、まだ見てもらってなかったじゃないか。
安置所で顔を見た時は信じられなかった。棺の中で眠る顔を見た時、幼い頃に遊んで貰った記憶ばかりが甦ってきた。涙が止まらなかった。嗚咽が出るのを堪えられなかった。母親に聞いたよ。渡した孫の写真を毎日見ては、何度も「俺に似てる」って嬉しそうに話してたらしいな。孫を抱いてもらえなくてごめんな。酒を注いでやれなくてごめんな。親不孝ばかりしてごめんな。あと何年後、いや何十年後かもしれないけど、俺がそっちに逝ったら一緒に呑んでくれるか、その時まで、そっちでも呑みすぎてまた体壊したりするなよ。親父が好きで呑んでた銘柄は、今でも呑んでないよ。あの酒は親父と一緒に呑みたいから……