学校日記

ちょっといい話

公開日
2022/11/02
更新日
2022/11/02

お知らせ

   小児がんだった息子の願い 

 歳の離れた弟は体が弱く、小さい頃から何回も入院を繰り返していて、見舞いにいくことがよくありました。同じ病室には小児がんでずっと入院している子が何人かいて、特別人懐っこいA君と僕は弟と同じくらい可愛がっていました。A君は病室から出たことがなく、A君のご両親曰く、病状も思わしくない状況が続いているとのことでした。それでもご両親も、A君も、いつもとっても明るいんです。しかし、ある時期を境に、A君の病状は僕の目から見てもわかるくらいに悪化していきました。それでも病室ではA君のご両親はいつも通りに明るく振る舞い、A君も調子が悪い中でも笑顔を絶やしていませんでした。「本当に強い家族だな…」と驚いたものですが、見舞いに行った帰りのタクシー乗り場で、A君のご両親が泣いているのを見て、僕は胸が締め付けられる思いでした。またその後、A君がベテランの看護師さんに「僕は、あとどのくらい生きられるの?」と聞いているのを聞いてしまった僕は、A君家族が病室で無理をしてでも明るく振舞っていることに気づき、涙が止まらなくなりました。それから数週間して、A君のがんはさらに重くなったようで、重症患者の病棟に移りました。その後、A君が亡くなったことをA君のご両親から聞かされました。
 大人でもその副作用に苦しむくらいですから、子どもにとっての抗がん剤治療はとても苦しいものです。A君のご両親は、「これを打てばよくなるから」と言ってA君を励まし、A君はそれを信じ、我慢して注射を打ち続けたそうです。最期、息を引き取る直前のA君は、消え入りそうな声で「注射…打って…」と懇願したというのです。「注射を打てば、よくなる」、ご両親の言葉を信じ、何度も何度も痛みに耐えて注射を打って来たA君は「また注射を打てば、自分はまだ生きられるんだ」と思って、「注射を打って欲しい」と何度も何度もご両親に頼みこんでいたそうです。「その姿が今でも目に焼き付いて離れない…」と、ご両親は目を真っ赤にして話してくれました。
 僕はA君とご両親のことは一生忘れないでしょう。