ちょっといい話
- 公開日
- 2022/10/14
- 更新日
- 2022/10/14
お知らせ
中学生になった娘
俺は高校までずっと都立で給食だったし、大学も学食やらコンビニやらで済ませてきた。母親の手作り弁当の記憶なんて、運動会か遠足、それも遠すぎて覚えてない。就職しても、社食が当たり前で妻も俺に弁当を作ったことはない。俺自身も、弁当箱を持って歩くのも荷物になるし、弁当への思い入れも何もなかった。
ある日、今年中学生になった娘が、「はい、オヤジさん(←娘は俺をこう呼ぶ)」とバンダナで包まれた弁当箱を手渡した。「何じゃ、これ?」と俺が言うと、「だって、今日オヤジさんの誕生日じゃん」と……。俺、絶句。「何だ、お前、弁当作ってくれたのかよ。食えるのか?」と、恥ずかしさのあまり悪態をついてしまった。だが、娘は「一生懸命、早起きして作ったよ」と笑顔だった。素っ気ない顔しながら、気になって弁当箱の中身を確認したら、ご飯には鮭フレークでハートが描いてあった。おかずはハンバーグと、ウインナーと、ベーコンポテト。俺の好きなチーズも入っていた。胸が詰まった。2450グラムと小さく生まれてきた日のこと、夜中熱を出して夜間診療所に駆け込んだこと、運動会の徒競走で転んだこと、俺の胸に幼い日の娘の姿がよぎる。
あいつ、こんなに大きくなりやがって……。食べた弁当の味は、しょっぱい。勿論俺の涙の……。