学校日記

ちょっといい話

公開日
2022/10/06
更新日
2022/10/06

お知らせ

   ごめんなさい、ごめんなさい

 私は自分で決めたルールがある。「自分が悪い」と思った時に、すぐ「ごめんなさい」を言うこと。
 もともと私は意地っ張り。だから「自分が悪い」と思っても「ごめんなさい」の一言が出ない。小さい頃から勝気で、兄とケンカしても必ず兄が折れるまで謝ったことはなかった。通知表の所見欄にも、「意思が強いのはよいところ、意地っ張りは悪いところ」と書かれていて、母も手を焼いていた。
 当時、付き合っていた彼氏とケンカをしても、絶対に折れることがなく、彼がいつも折れてくれる事で修復されていた。クリスマスイブにも、大ゲンカをした。原因は私。でも、意地っ張りな私。「悪い」と思っても、「ごめんなさい」が言い出せなかった。いつもなら「分かった、分かった」と、和ませてくれるのに、その日は違った。「もういいよ」とだけ言ってバイクで1人、さっさと帰ってしまった。意地っ張りな私。その場で「ごめんなさい」が言えなかった。当然電話やメールで謝る事もできず、あっと言う間に日付けが変わった。ホワイトクリスマスになった夜中。私の携帯のバイブレーションの音が、妙に部屋に響いた。彼のお母さんからの着信だった。私と別れた帰り道、「信号無視してきたトラックに跳ねられ、そのまま命を落とした」と……。頭の中は真っ白だった。無我夢中で病院に駆けつけて、何度も何度も叫んだ。「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」、今更言っても遅いのに……。私がちゃんと謝っていれば、彼がこんな事にならなくてすんだ。私が素直になれていれば、まだ彼と一緒にいる時間だった。「もういいよ」それが、彼との最後に交わした言葉。「ごめんなさい」の一言が言えずにいた、ちっぽけな私のプライドのせいで、彼は死んだ。私に彼のお母さんが彼が使っていたケータイを見せてくれた。そこには未送信メール1件「むくれてるお前も好きだけど、素直な笑ってるお前が好きだよ」と……。
 あれから10年。もちろん1日も彼の事を忘れたことはない。そして、今でもクリスマスの時期にバイブレーションの音を聞くと、あの日の事を鮮明に思い出す。彼が命がけで教えてくれたこと。悪いと思ったら「ごめんなさい」、意地をはらず素直になること。これだけは絶対守る。
 私の生きていくルール。