ちょっといい話
- 公開日
- 2022/10/03
- 更新日
- 2022/10/03
お知らせ
母さんが泣くのを見るの初めてだった
うちは、親父が仕事の続かない人でいつも貧乏。母さんは、俺と兄貴のためにいっつも働いてた。土日もゆっくり休んでたという記憶は無い。俺は中学・高校の頃、そんな自分の家庭が嫌でしょうがなかった。夜遅くまで好き勝手遊んで、学校さぼったことも多かった。高校卒業して就職もしないで遊んでて、当然金は無い。そこでやっちゃった。盗み。小心者の俺は、その日に自首。ただ、びびっただけ。警察に俺を迎えに来た母さんは、本当に悲しい顔してた。でも泣いてはなかった。一緒に家庭裁判所行ったときも、割と落ち着いてた。裁判所の帰りの電車で、俺あやまったんだ。ボソッと「ごめん」と……。そしたら、「お母さんこそ、お前に申し訳ないよ。小遣いもやれないで……」。 俺、電車の中でぼろぼろ泣いた。「何やってんだ俺、何やってんだ俺」って……。ここでも母さんは泣いてなかったな。ただじっとうつむいてただけだった。
俺はその後必死になって勉強した。昼はスーパーでバイトして、夕方からは受験勉強。そして、翌春に何とか大学に合格。バイトは続けながら、大学生活が始まった。でも、母さんは、俺のことがまだ心配なようだった。母さんも相変わらず働きづめで、俺との会話がなかったので……。だから俺、入学後も一生懸命勉強した。自分のためっていうより、母さんを安心させてやりたかった。それで大学1年目の終わりに、「母さん、見せたいものがあるんだ」と言って、紙を1枚渡した。大学の成績通知書。履修した科目が全部「優」だったから……。最初はよくわかんなかったみたいだけど、説明したら成績がいいのはわかったみたい。 母「へえ、すごいね、成績」、俺「すごいかどうかはわかんないけど……」、母「すごいね、偉いね」、俺「だからさ、俺、もう大丈夫だから。母さんを裏切ったりしないから」、そしたら母さん、泣き出しちゃった。もう号泣。そこで気付いたんだけど、俺、母さんが泣くのを見るの初めてだった。きっと、何があっても子どもには涙は見せないようにがんばってたんだと思う。それを思ったら俺も泣き出しちゃった。
親孝行しなきゃな……。