ちょっといい話
- 公開日
- 2022/09/29
- 更新日
- 2022/09/29
お知らせ
きっと大丈夫ですよね
60歳過ぎて、「癌」と言われても治療はしません。5年前、1人娘も結婚しましたし、思い残す事ももうないのです。でも、オリンピックと孫の顔は、見てみたかったですね。30歳の時に夫を舌癌で亡くしました。それからというもの、娘を1人で育ててきました。癌だと電話口で娘に伝えると、1通の手紙が送られてきました。
お母さんへ
ほんとに治療しないの? 私としては「治療をしてほしい」、「生きてほしい」。お父さんが死んでから、お母さんに無理をさせたのは分かってる。お父さんが死んだとき、仏壇の前に1人で佇んでるお母さんのちっさい背中を見たとき、「この人も不安でたまらないんだ」って私にも分かったもん。不安でたまらなくて、押しつぶされそうなくせに、いっつも笑ってたよね。もう無理はさせたくないんだけど、まだ一緒に居たいよ。小柄なくせに、ピンって伸びた背筋はお母さんの性格を物語ってた。たったひとりで、何十人もの悲しみとかを背負えるわけないじゃん。でもお母さん、意外と頑固だから私が言っても聞かないんでしょう。だから、感謝を伝えるために書いた手紙のはずなのに、いつの間にか 「まだ生きて」と、また重みになるような言葉かけてる。お母さんが欲しいのは、「頑張ったね」とか「お疲れ」っていうお父さんからの言葉かもしれない。でも私は、まだ未熟で子どもっぽいから分からない。「何で自ら死に向かって行こうとするの?」。まだお母さんの笑顔が見たいよ。 〇〇より
私は27年間、娘の前で泣きませんでした。女らしいとか捨てて、ただ強く生きようとしていました。今は確かに、夫からの褒め言葉を聞きたいですね。でも、1つ言えるのは、自ら死に向かっているのではなく、「死」を受け入れようと頑張っているんです。私も娘の笑顔はまだ見たいですが、過ごした時間は夫より娘のほうが18年も多いのです。そろそろ夫の声も忘れてきましたし、お迎えが欲しいところです。甘えん坊を置いて逝くのは、気が引けますが、あの子には支えてくれる夫が居るのです。きっと大丈夫ですよね?泣いても笑っても、実はもう少ししか、私には時間というものがありません。私の大好きな人と、大嫌いな人にも感謝です。私という人間を作り上げた全ての人に……。