学校日記

ちょっといい話

公開日
2022/07/06
更新日
2022/07/06

お知らせ

   私の名前は覚えていてくれた 

 私の夫は、結婚する前に脳の病気で倒れ、死の淵をさまよいました。私がそれを知ったのは、倒れてから5日後でした。夫の家族が携帯電話を見て、私の存在に気が付き、連絡をくれたのです。お見舞いに行ったのはいいのですが、脳の病気という事で、記憶障害で私の事を覚えているのか、とても不安でした。病院で夫の家族や医療関係者と「彼の病状が深刻である」という説明を受けて、覚悟を決めて病室に入りました。
 すると、彼は私を一目見て、私の名前を呼んだのです。お医者様が、「この人の事がわかりますか?」と尋ねても、夫はそれに返事をする事すらできなかったのに、私の名前は覚えていてくれました。思わず涙がこぼれました。「何で、何で覚えていてくれたの」と彼に問いただしたかったし、「神様、たった1つだけ記憶を残してくれてありがとうございます」と、泣き叫びたいような、そんな気持ちになりました。夫は、その後半年間、脳に水がたまった事が原因で、意識不明になりました。半年後に再び目を覚ました時、やっぱり私の事を覚えていてくれました。
 今でも、私達がどういう出会いをしたのか、一緒に出掛けた思い出などは何一つ思い出せません。「どうして私の名前だけは覚えていたのかな」と尋ねると、夫は「他は何にも覚えていないけれど、好きな人だから覚えていた」と笑ったのです。それを聞いて、私は夫と結婚する事を決めました。夫の症状は重く、今でも記憶ができません。10分前に食べたものも忘れてしまいます。たぶん、一生介護が必要でしょう。だけど、すべて忘れてしまった中で、私の事だけは忘れないでいてくれた。そんな愛情をくれた夫を、私は一生愛していきたいと思います。今、私と夫の間にあるのは、本当に愛情だけです。お金や宝石や素敵なデートもない……。けれど、この人からもらえるものはたった1つだけれど、これほど素晴らしいものをもらえるのを、私はとても誇りに思います。