学校日記

ちょっといい話

公開日
2022/07/05
更新日
2022/07/05

お知らせ

   父との出会い

 「父との出会い」というのも変な話ですが、父は、私の中ではとても大きな存在なのです。
 5年生になったばかりのある日、私は本屋に連れて行ってもらいました。そこで見つけた問題集。私は欲しくなりました。勉強が好きだったわけではありませんが、入試を控えた姉がいた影響だろうと思います。「買ってよ」と父に頼みました。父は、「これはけっこう難しい問題集だぞ。ちゃんとできるか」と言いましたが、私は「1日1ページすれば楽にできる」と言って買ってもらいました。それから2週間ほどたったある日のことです。私は遊び疲れて、その問題集もせずに寝ていました。「明日まとめてすればいいや」と考えていたのです。その晩遅くに、父は帰ってきました。そして、テーブルの上にあった問題集を見て、その日の分が終わっていないのを確認するやいなや、私をたたき起こし、「今日の分はどうした、今からやれ」と……。私は半分寝ぼけていましたが、言い訳できませんでした。言い訳の通じる父ではなかったからです。私は、半泣きの状態で問題を解き始めました。運悪く、その日のページは「まとめ」のページで、どこそこの入試問題やら難問やらが並んでいました。しかも、父はどっしりと私の前に座っています。どうしても解けない問題があり、私は観念して父の顔を恐る恐る見上げました。ところが父は「なかなかできとるなあ。その難しい問題はな…」と言いながらていねいに教えてくれました。なぜだかわからないけれど、すごくよくわかりました。厳しさの中に、優しさがありました。断っておきますが、父は決して教育パパではありませんでした。ただ、「自分の言葉に責任をもて」と言いたかったんだろうと思います。「(男が)言い訳なんかするな」という言葉を、それまでにもよく聞きましたから。
 父は、その年の10月に、あっけなく他界しました。今でも時々、問題集と格闘していたあの日のことを思い出します。また、「父と酒を飲んでみたかったなあ」とも思います。でもそれは、言ってもしかたのないことです。今は、我が子のためにも、1日でも長生きしたいと思っています。