学校日記

ちょっといい話

公開日
2021/12/22
更新日
2021/12/22

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   普通の一家の物語 

 その昔、大学の同級生の女の子にガリガリに痩せた子がいた。細身の娘が好みだったので声を掛け、程なく恋仲に。ある日、「心臓に大穴が空いていて、苦しい。子どもも無理。諦めるなら今のうち」と告白された。本人は死ぬ気だったらしい。それでも迷うことなく、恋人のまま。手術ができるのならと、心臓外科を探しまくって何とか手術に漕ぎ着けた(ドキドキ)。成功した。嬉しかった。術後も良好。
 でも、子どもは無理。「妊娠しないだろう」と言われた。当然、親同士は結婚に猛反対。俺の親は勿論、向こうの両親も。無視。無視し続けてもなお、説得も続け、6年かけてやっと挙式・入籍。10年後、余程経過がよかったのか、妊娠が発覚。主治医に相談したら、「妊娠できたのなら出産は問題ないだろう。挑戦しましょう」。「お前、俺の女房だぞ、俺の子どもだぞ、大丈夫なんだろうなぁ」(ドキドキ)。無事出産。3,000グラムの元気な男の子。あまりに嬉しくて、二寸ほど宙に浮いていた。
 半年後、かみさんに似たような心臓障害が発覚。「成長しないだろう」と言われた。どういう事……。「様子を見ながら手術をしましょう」。かみさんの執刀医の紹介で、小児心臓外科の先生にお願いする。「大事な一粒種、殺すなよ」。頼むから……(ドキドキ)。成功した。これ以上ないくらい。
 あれから15年。コロコロに太ったかみさんがいる。「うぜえんだよ、親父」。憎まれ口をたたく、ちょっと小振りな男子高校生がいる。ここに、冴えないサラリーマンの普通の一家がある。
 かみさんにも、せがれにも言わないが、幸せを噛みしめている。