ちょっといい話
- 公開日
- 2022/09/20
- 更新日
- 2022/09/20
お知らせ
お母さんのお弁当
私の母は昔から体が弱くて、それが理由かは知らないが、母の作る弁当はお世辞にも華やかとはいえないほど、質素で見映えの悪い物ばかりだった。友達に見られるのが恥ずかしくて、毎日食堂へ行き、お弁当はゴミ箱へ捨てていた。
ある朝、母が嬉しそうに「今日は〇〇の大好きな海老入れといたよ」と私に言ってきた。私は生返事でそのまま学校へ行き、こっそり中身を確認した。すると、確かに海老が入っていたが、殻剥きもめちゃくちゃだし、彩りも悪いし、とても食べられなかった。家に帰ると母は私に「今日の弁当美味しかった?」としつこく尋ねてきた。 私はその時イライラしていたし、いつもの母の弁当に対する鬱憤も溜っていたので「うるさいな、あんな汚い弁当捨てたよ。もう作らなくていいから」と、ついきつく言ってしまった。母は悲しそうに「気付かなくてごめんね……」と言い、それから弁当を作らなくなった。
それから半年後、母は死んだ。私の知らない病気だった。母の遺品を整理していたら、日記が出てきた。中を見ると、弁当のことばかり書いていた。「手の震えが止まらず、上手く卵が焼けない」と……。
日記はあの日で終わっていた。後悔で涙がこぼれた。