ちょっといい話
- 公開日
- 2022/09/15
- 更新日
- 2022/09/15
お知らせ
余命
1990年5月、婚約者が肝臓ガンで「余命半年」と宣告された。自分より2歳年下の彼女は当時25歳。将来の生活を想像し、お互い希望に胸膨らませ、幸せの絶頂にあった2人にとって、それは到底絶え難き試練であった。しかし、彼女は強かった。事実を受け入れ、「最期まで諦めずに生きる」と誓ってくれた。そこから2人3脚の闘病生活が始まった。大型トレーラーの運転手である自分は勤務が不規則だったが、できる限り彼女の病室を訪れ、励まし、応援し続けた。彼女もそれに応えるように治療にのぞみ、歩き続けた。その結果、その年の9月には、北海道旅行ができるまで回復した。そして、一縷の望みが生まれた。「もしかしたら、彼女は助かるかもしれない……」
旅行の初日、小樽を訪ねたとき。当時、小樽では「石原裕次郎記念館」の建設工事が進められていた。母親の影響で、子どもの頃から裕次郎のファンだった彼女は、「もし、私に奇跡が起こって、再び小樽に来られたら一番に石原裕次郎記念館に来てみたい」と言っていた。自分もその言葉に微かながらも希望をもった。しかし、その奇跡が起こることはなかった。札幌の時計台を訪れたとき、「恋の街札幌」を唄っていた彼女は、それから3ヶ月余りが過ぎた1990年12月5日早朝4時31分、「お爺ちゃんに会いにいって来る」という言葉を残して、お婆ちゃん、両親、弟と妹、そして、自分に看取られながら、大好きだったお爺ちゃんのところへ旅立った。
昨年、彼女の13回忌を済ませ、自分も今年40になるが、自分の心の中に永遠に生き続ける彼女を支えにして、今日も生きている。
