学校日記

ちょっといい話

公開日
2022/02/02
更新日
2022/02/02

お知らせ

   父の視線 

 俺の父は、俺が6歳の時に死んでしまった。ガンだった。今思えばかなりの早死にだった。父のイメージは、俺の中ではあまりよいものではなく、どちらかといえば怖いという印象しかなかった。
 父の記憶といえば、1つだけ、ラーメン屋の思い出が鮮明に残っている。父はラーメンの大盛りを1人前頼み、取り分け皿をもらい、そこに俺の分のラーメンを入れてくれた。当時5歳だった俺にとって取り分け皿のラーメンでも結構な量だった。食べるのに時間がかかった。ふと見ると、父が俺のことを見ていた。怖い顔をして「早く食え」と、睨まれていたような記憶がある。ちらちら父の視線を盗み見たが、父はいつまでたっても俺を睨んでいた。「何でそんなに俺のこと睨んや……」と思ったが、父の表情が怖くて、再びラーメンを必死で食った。それが数少ない父の記憶だった。
 そんな俺も母に育てられ、30歳になって結婚した。そして男の子を授かった。とてもかわいく、「目の中に入れても痛くない」とはこのことだと初めて知った。そして、息子も幼稚園に入る歳になった。だが、仕事が忙しいこともあり、満足に遊べなかった。だから先週、日頃の罪滅ぼしにと、息子を連れて2人で出かけた。そして昼飯時になり、息子は「スパゲティが食べたい」と言ったので、大盛りを頼み、2人でシェアして食べた。息子は一生懸命食べていた。先に食べ終えた俺は、頑張って食べている息子がとても愛おしくずっと眺めていた。そんな俺の視線に気付いたのか、息子はちらちらと俺の方を見ていた。俺も仏頂面で、見てみぬふりをしつつ、息子が食べる姿を見ていた。仕事が忙しく、あまり会話もない俺と息子だからこそ、俺は息子がとても愛おしく思えた。いつまでも息子を見つめていたいと感じていた。
 あの時の親父の視線の意味が、今になってようやく理解できた。父さん、ありがとう。