学校日記

ちょっといい話

公開日
2022/01/13
更新日
2022/01/13

お知らせ

   一緒にお弁当食べていいかな 

 今から15年以上前。当時、小学6年生だった僕のクラスにA君という、兄弟のおさがりと思われるヨレヨレの服を着た子がいました。体も小さく勉強もスポーツもてんで駄目なA君は、クラスでいじめられていました。かわいそうだと思いながらも、僕は自分が巻き込まれるのを恐れ、遠くから見ていることしかできませんでした。
 そんなある日、事件が起こりました。その日は、遠足で登山に行きました。友達のいないA君は、お弁当の時間も孤立しているような状態。A君は5分経っても、10分経っても弁当箱を開けようとしません。僕はその理由にすぐ気づきました。周りの同級生が、愛情がたっぷりのお弁当を自慢し合っている中、自分の惨めなお弁当を他の人に見られたくなかったのです。そんな時、A君に違うクラスのY先生が近づきました。Y先生は女性の先生で、とにかく厳しかったため、児童はもちろん同僚の教師からも怖がられていました。クラス替えの前日は、Y先生のクラスになるんじゃないかと不安で眠れなかったほどでした。そんなY先生がA君に対して「一緒にお弁当食べていいかな」と笑顔で声をかけました。これには、その場にいた誰しもが、一瞬目を疑いました。Y先生の笑顔など、学校内では1度も見たことがなかったからです。そして、彼女は大きなリュックサックから弁当を取り出すと、そこにはお節料理のような豪勢なお弁当がありました。びっくりして言葉を失っているA君を尻目に、先生は「一杯作ってきたから、アナタ達も食べなさい」と他の児童にも声をかけました。こうしてさっきまで1人ぼっちだったA君の周りには、児童の輪が出来きました。遠足の日以来、A君は少しずつクラスに馴染んでいき、卒業の日を迎えました。卒業式が終わると、A君の母親が、Y先生に涙ながらにお礼の言葉を述べていました。
 10年後、教育実習で母校にお世話になったとき、当時の様子を知っている先生から、「Y先生はA君の給食費や修学旅行費を立て替えたり、休日にA君の家庭教師もしていた」という話を聞き、10年前の遠足の時、Y先生は最初から「A君が周りと打ち解けられるように」豪勢なお弁当を作ってきたのだと確信しました。厳しくて生徒から嫌われていたY先生が、あの日見せた「人としての本当のやさしさ」を知り、教育者を目指す身として、胸が熱くなった。