学校日記

ちょっといい話

公開日
2021/12/15
更新日
2021/12/15

お知らせ

   父がいきなり泣き出した 

 自分がまだ幼稚園児の頃だと思うのだが、夜中にふいに目が覚めると、父が覗き込んでいて、いきなり泣き出した。大人が泣くのを見るのは、記憶の限りその時が初めてで、しかも「父はとにかく強くてかっこいい」と信じていたので、凄くびっくりして変に印象に残ってる。その後、何度か確認する機会があったが、父がいつも「夢でも見たんだろう」と言っていたので、自分もそう思うようになっていた。
 が、20年以上の歳月を経て、父はついに白状した。当時、とにかく忙しい職場に勤めていた父は、朝は私が起き出す前に出勤。夜は就寝後に帰宅の日々。寝顔をそっとのぞき込むのが日課。「このままでは娘に顔を忘れられてしまう」と不安に思っていたらしい。そんなある日、いつものように寝顔を眺めていると、私が目を覚ましてしまった。「やばい、よく寝ていたのに……。ぐずってしまう」と父が焦っていると、私が寝ぼけ眼のまま「おとーしゃんだ」と言って、ニッコリと笑ったらしい。ほとんど顔をあわせることもできず、たまの休みにも疲れ果てて寝ていることが多かった父。しかもこんな夜中に起こされて、それでもこの子は「自分の顔を見て喜んでくれるのか」、「こんなふうに笑ってくれるのか」と思ったら、愛しさが込み上げて思わず泣いてしまったらしい。それがどうにも恥ずかしくて照れくさくて、本当のことが言えなかったらしい。
 「嘘付いててスマン」と告白される結婚式前夜。「明日目が腫れたらど−してくれる」と私が切れたので、笑い話になったが、父が涙を流していたあの記憶は、私にとってよい思い出になった。